「放てー!」 肩幅以上に両足を広げて足の指五本踵一個、しっかり地面に張り付けて叫ぶ。
放つ・方向は小奇麗… いや、庶民的だけれど小汚くは無いマンション。
あたしの命令に従い、沢山の火の玉が建物を襲う。
火の粉が舞って、落ちて、辺りの芝生を燃やし始めるから驚いた。
どうなるのかなって試してみただけなのに・こんな大事になるとは……
頭を抱えて体勢を低くして 其の場から逃れる事にした。
だけど火の手がどんどん勢いを増して、熱はあたしなんかよりもとうにビッグになっている。
救えるのも又、あたししか居ない そう感じた。
横たわっている消火器へと、「しゃんと為さい!」 ヒステリックに怒鳴りつけたら抱きかかえ
放て、火を殺す白の物体。思ったよりも火の勢いは弱まり後は住人達でも何とか出来そう。
ずらかるぜなんて心の中で呟いたら、父親が居た。
「御前」 其のたった一言であたしは一歩も動けなくなる。
叱られる・ 子どもの頃の様に必死に言い訳を探すんだけど
子どもらしい言い訳しか思い浮かばなくて
嘘の天才も此処では駄目ねと 誰かが囁いた。
暗闇の中、邪魔な人ごみ。ゴミ。押しのけ突き飛ばして、焼ける人間どもから逃れる。
階段の壱つ先の踊り場で、白の帽子迄すっぽりと被った 作業着姿の上司を見た。
手には、あたしの帽子を握っている。 「こっちだよ」って逃げ道を視線で合図してくれる。
こんなあたしの唯一の味方なんだ 尊敬すべき人柄だと
彼女を追う。多分あれは、けして失くしてはいけない帽子なの。
彼女に預けていればきっと大丈夫。そう思った。
感謝の気持ちを抱きつつ、あたしはきっと焼け死ぬ。